2022年2月のウクライナ侵攻開始から約2年を経て、ようやく戦況で優位な立場を固めつつあるロシアのプーチン大統領は、
24年3月の大統領選で圧倒的な勝利を誇示する態勢を整えつつある。
政敵を〝北極圏送り〟にするなどなりふり構わぬ手法で、実質30年にわたる超長期政権を手中に収める構えだ。
プーチン氏の圧勝は一方でロシア国民にとり、兄弟国家のウクライナを侵略し、破壊する行為に賛同するという、精神的な一線を越えることになる。
巨大な独裁国家「ソ連」への回帰ともいえる流れが加速するのは必至で、ロシア社会は自由な言論がさらに容認されない、厳しい窒息状態に陥ることになる。
■周到に準備された〝芝居〟
「今こそ、そのような決定が下されるべき時なのだろう。私は、大統領選に出馬する」
23年12月8日、プーチン大統領は表情も変えずにそう言い切った。モスクワで行われた、ウクライナ侵攻に従事した軍人らに勲章を授与する式典でのひとこまだった。
式典が終わった直後に、ロシアが占領するウクライナ東部の武装勢力「ドネツク人民共和国」の軍人が、プーチン氏に
「私たちは、ロシアに再統合された、ドンバス地域(ウクライナ東部)のすべての人々の総意として、あなたに大統領選に出馬してほしいのだ」と要請。
その言葉に応える形で、プーチン氏は出馬を宣言した。
軍人らが動き出すや、テレビカメラが素早く回り込み、プーチン氏の発言を撮影していた。
ロシア政府は「準備されたものではない」と主張するが、周到に用意された発言であったのは明らかだ。
さらにプーチン氏の発言はまわりくどく、〝芝居〟との印象をさらに強めていた。
■ロシア軍は31万人が死傷
ウクライナ侵攻をめぐり、プーチン氏はロシアが前線で優位な立場に立ちつつあると、繰り返し誇示している。
ウクライナに対する欧米の支援疲れが鮮明になるなか、ゼレンスキー大統領が厳しい局面に追い込まれているのは間違いない。
ただ米情報機関はロシアが、31万人超ともいわれる死傷者を出していると分析しており、
この数字は約7万人とされるソ連のアフガニスタン侵攻での死傷者の4倍を超える。
それでも、ウクライナ侵攻の明確な出口は依然見えておらず、プーチン氏が当初目指していたウクライナ全土の制圧には、程遠い状況にある。
そのようななかでの大統領選への出馬を正当化するには、プーチン氏には相当の〝理由付け〟が必要だった。
その意味で、ロシアが「戦果」として占領したウクライナ東部の軍人からの、プーチン大統領への再出馬の要請は、
プーチン氏の再出馬を正当化できる最大限の理由だと政権側は考えたに違いない。
■北極圏で封じ込め
プーチン政権は一方で、大統領選での圧勝をおぜん立てるために、これまで以上に反体制派の封じ込めにやっきになっている。
その象徴が、アレクセイ・ナワリヌイ氏の北極圏送りだ。
ロシア当局はナワリヌイ氏を繰り返し拘束、拘留して、23年8月には過激派団体を創設したとの罪で、懲役19年の判決を下した。
同氏は刑務所に入れられていたが、12月に入り、突然動静が不明となった。
処刑されたかもしれないとの懸念が高まったが、ナワリヌイ氏は同月末、ロシア北部ヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移送されていたことが判明した。
外部はマイナス30度にもなる、永久凍土に覆われた同刑務所は、かつて旧ソ連の強制収容所として利用されていた場所だ。
同氏の活動は完全に封じ込められた格好で、政権の強い警戒感がにじみ出ている。
3月のロシア大統領選をめぐっては、ウクライナ侵攻を批判する独立系のジャーナリストが中央選挙管理委員会によって出馬を拒否されるなど、
あからさまな政敵の排除が進む。
〝体制内野党〟と揶揄される、実質的に政権の一部となっている野党や、一部の改革派が出馬する見通しだが、プーチン氏に脅威をもたらす可能性はまずない。
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後任にロシアを統治できそうな大物が見当たらない
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