GMに返した「引退します」の言葉
舞台裏では、なにが起きていたのか。
西武からソフトバンクにFAで移った山川穂高の人的補償を巡り、両球団は1月11日の夕刻に甲斐野央が移籍することを公表したが、同日付の一部スポーツ紙が西武は和田毅を指名する方針を固めたと報道したことを受け、朝からすでに大きな波紋を呼んでいた今回のFA騒動。
それは誤報に過ぎなかったのか、それとも指名選手を急遽、変えなくてはいけない事情が発生したのか。
「引退します」
西武から人的補償として指名されたことを聞かされた和田は、そう告げたという。球界関係者が経緯を明かす。
「西武は9日の段階でソフトバンクに人的補償として和田を選んだ旨を伝えています。ですが、それはソフトバンクにとっては想定外だった。西武は先発投手陣が充実していますし、和田は今年43歳となり、推定年俸も2億円と高額。指名されることはないだろうと踏んでプロテクトしなかった。
それがまさかの事態となって翌10日に三笠杉彦GMが和田が自主トレを行っている長崎を訪れ、直接、会って事情を説明したものの、ソフトバンクに強い愛着を持つ和田は他球団でプレーすることはどうしても承服できず、ユニフォームを脱ぐ選択を口にしたそうです」
和田の決意の重さを知ったフロントは慌てて別の道を模索し始める。
スクープしたスポーツ紙の報道によるファンの反発が想像以上だったことで方向転換したと見るムキもあるが、当然、その前に動き出していたようだ。
「甲斐野はプロテクトされていた」
前出・球界関係者が続ける。
「球団の顔とも言うべき和田をこんな形で引退させるわけにはいかない。すぐに西武に事情を説明して詫びを入れ、別の選手にしてもらえないかと願い出た。西武は何人かの選手の名前を挙げていく中で、完全に納得したわけではないものの大人の対応を見せて甲斐野に変更した。
聞いたところでは甲斐野はもともとはプロテクトされていたそうで、みずからが種をまいたこととはいえソフトバンクも和田を守るために誠意を尽くしたんでしょう。ただ、異例のケースとはいえ、それが本当ならリストなんてあってないようなものになりかねない。両球団の間でやり取りするだけでなく、たとえばNPBもリストを共有するなどしないと公明性を保てないのではないか」
また、遊軍記者はこんな危惧をしている。
「制度上は拒否することはできませんから、結果的にチームに残れた和田をゴネ得だと批判する人も出てくるかもしれません。しかし、昨季も有原航平に次ぐ8勝を挙げ、小久保裕紀監督も開幕ローテ入りを明言しているわけで、和田のショックの大きさは計り知れない。どう見てもプロテクトしなかったフロントに問題がある。
メジャーでプレーした時期もありましたが、国内復帰の際は迷わず古巣を選び、引退後は同じユニフォームで指導者になることが夢と話している和田は本当にソフトバンク愛が強い。チーム内はもちろん、他球団の選手からの人望も厚く、野球に向き合う姿勢も若手の手本になる。選手としての力だけでなく、そういう部分も評価して西武も和田を選んだはずです」
西武で言えば、過去にも炭谷銀仁朗の人的補償として、同じようにベテランの内海哲也を獲得した過去もある。
王会長が叩かれる事態に
フロントの見通しの甘さを指摘するのはソフトバンク担当記者も同様だ。
「ファンにとっても和田は特別な選手。たとえばプロテクト漏れが噂された中村晃にしても生え抜きの功労者ですが、もし流出となっても和田ほどハレーションが起きたかというと、そうはならなかったと思います。しかも、その代償として獲得するのが山川というのもファンの反発感情に拍車をかけた。
山川獲得に関して、現場では表向き『歓迎する』と言うしかなかったわけですが、『女性ファンが離れる』『ファンの抵抗がすごいことは目に見えているのに、そこまでして獲らないといけないのか』と本音を漏らす選手もいた。それでもフロントはゴーサインを出した。
王貞治会長だって最初から一貫して獲得に反対していた。最後は現場が必要としているということで、その意向を尊重し、決まった以上は応援するという発言に至ったところ、王会長までファンから叩かれる事態になってしまった」
今回も和田が流出となった場合の想像が甘く、プロテクトしなかったということのようだが、フロントの責任を追及する動きはないのか。
後編記事「和田毅に”引退”を迫った人的補償制度」ではフロントの責任や「悪魔のシステム」とも揶揄される人的補償制度について詳述します。
引用元: ・【野球】「引退します」…《FA人的補償騒動》の渦中でGMに示したソフトバンク和田毅の「悲痛」 甲斐野は「プロテクトされていた」 [Ailuropoda melanoleuca★]
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