ゴールデンウィークのさなか、日暮れ時だった。広島市内の交番に姿を見せた母親(80)は、ロープを手にしていた。
息子を殺しました――。
近くを流れる川の土手では、仰向けで倒れていた長男(55)が見つかる。死因は窒息死。
母親は殺人罪で起訴された。この土手で5月5日午後6時半ごろ、長男の首をロープで締め付けるなどして殺害したとされる。
「アルコール依存症や記憶障害に苦しむ長男の将来を悲観した」広島県警の調べに、こう供述したという。
「家族全体の病」とも言われるアルコール依存症。実態を知って欲しいと取材に応じた父親の証言をもとに、事件の経緯をたどります。
記事の後半では、別の家族を紹介しています。亡き父の香典で酒を飲むほどだった息子。回復にはきっかけがありました。
《息子は根が優しくて、親思いの子じゃった。暴力を振るうこともなかった》
3人で暮らしてきた父親(87)が事件後、取材に語った。
「自分も、もっと何かできたんじゃないか」。そんな後悔があるという。その証言をもとに、事件までの経緯をたどる。
■3交代勤務が依存症の入口
始まりは約20年前、長男がホテルの受付で働き始めた頃だった。
《3交代だから、次の勤務までに睡眠とらなきゃいけない。でも、寝られんから、ビールや何かを飲む癖がついた》
その後、タクシー運転手に。しばらくすると、乗務を終えた後、自宅で晩酌するようになる。
《どんどん酒の量が増えて。アルコール依存症専門の病院に入院せないけんみたいになって。出たり入ったり、3回ぐらい続けたんですよ》
それでも事件の1年ほど前には、いったん退院。
休みなくタクシーに乗務するようになって、「母さん、好きな物買ってやるけえ」とも話していたという。
■「息子の優しさ忘れられず」尽くす母
暗転したのは、今年の正月だった。
《駅伝とかをテレビで見ながら飲むのが楽しみだったらしい。元日から10日ぐらいまで飲んでいた。自分の部屋の枕元にビールの空き缶をだーっと並べ出した》
「このままでは、あの世に行くけえ」と諭して飲酒を止めようとしたが、止まらなかった。1月10日ごろ。入浴を終えた後、ベッドで大声を上げた。
《ああ苦しい、苦しいって。救急車に乗ったら、意識がもうろうとしていた》
その後、過度な飲酒により引き起こされる記憶障害と診断された。2月には精神科のある病院に入った。
母親は1時間ほどバスに乗って、何度も面会に通った。
《息子の優しさを忘れられず、全身全霊で尽くしているようだった》
■「2人で面倒みよう」 事件3日前の退院
アルコール依存症は「家族全体の病」ともいわれる。両親も年を重ね、体の限界が近づいていた。
《もうほとんど右目は見えません。左目も白内障と緑内障で》
母親は、体重35キロを切るほどにやせていた。夜眠れず、処方された睡眠導入剤を手放せなくなっていた。
《もう苦労して苦労して、悩んで悩んだもんだから体重は落ちてきたと思う。歩くとふらふらっとして》
心配は、自分たち亡き後のことだった。
《親が死んでからも20年余り生きると思うけど、自力で一人で生きて行けんのじゃったら、施設か病院かに置いてもらう以外にない。
その生き様がね、あまりにもむごいんじゃないかと》
事件3日前の5月2日。2人は長男を退院させた。
《2人で面倒を見ようって。たまに飲んでもいいけど、順調にいけば3人で暮らせるけえ》
自宅に戻ってきた息子は、すぐに酒をせがんだ。事件が起きた日もそうだった。
「お母さん、お父さん、こどもの日じゃけ、ビールくらい飲ませてよ」
《駄目じゃ、飲んだらあかんって言っても、『死んでもいいから飲ませてくれ』と》
■酒と一緒に飲ませたのは…
※略
県警によると、母親は酒と睡眠導入剤を飲ませ、長男が寝たところで首を絞めた、と供述。睡眠導入剤は、自らに処方されたものだと説明しているという。
◇
厚生労働省によると、アルコール依存症の診断基準を満たしたことのある人は推計54万人(2018年)。
事件という結末となった家族がいる一方、回復の糸口をつかんだ家族もいる。
◇
■亡き夫の香典を手にキャバクラへ
広島の事件を知って、京都市の女性(86)は昔の自分を重ね合わせた。
アルコール依存症の長男(60)は、16年前に酒を断つことができた。
でも、それまでには、酔って寝ている長男の胸に刃物を刺そうかと思ったときもあった。
※略
引用元: ・【酒】「こどもの日じゃけ飲ませて」 アルコール依存症で苦しむ家族、糸口は 依存症の診断基準を満たしたことのある人は推計54万人 [ごまカンパチ★]
爺さんはそんな感じで克服したなぁ。
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